Nasic Release ナジックリリース | 教育界における注目テーマごとに、各界の有識者の方々のご意見・ご提言を掲載した提言誌

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ナジックリリース第25号<BR>(2014年9月1日発行)

特集:「キャンパス進化論」

 

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我が国の「大学力」を結集し、オール・ジャパンで復興を支援 (文部科学省 高等教育局 局長 板東久美子)

未曽有の被害をもたらした東日本大震災は、日本の教育の在り方を根幹から問い直す契機となった。二〇一一年一二月に文部科学省が発表した「第2期教育振興基本計画の策定に向けた基本的な考え方」には、今回の震災の教訓を生かした内容が盛り込まれている。今後の高等教育行政のあるべき姿と方向性について、文部科学省高等教育局局長の板東久美子氏にお話を伺った。

 

日本の教育行政に大きな問題提起をした東日本大震災の教訓

――二〇一一年三月一一日に発生した東日本大震災は、被災地のみならず日本社会全体に未曽有の衝撃をもたらしました。この震災は、日本の教育にどのような教訓を与えたのでしょうか。今後、教育行政が取り組むべき課題についてご意見をお聞かせください。

板東局長(以下、敬称略) まず冒頭、このたびの東日本大震災により亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げると共に、被災された皆様には心からお見舞い申し上げます。

 今回の震災を通じて我々日本人は、「生き抜く力」の重要性を改めて認識しました。どんな困難や苦しい事態に直面しても、自らが考え、周りの人々と協力しながら行動していくことの重要性です。教育振興基本計画部会でも「自主的に考えて行動する力、社会がどう変化しても対応できる力の育成」の重要性が指摘されました。

 もう一つ明らかになった側面は、地域社会の中で、学びの場が非常に重要な役割を果たしてきたということです。

 文部科学省の被災地域の小中学校長の方々への調査によれば、学校と地域住民の方々が日頃から連携した取り組みを進めている地域ほど、避難所となった各学校で自治組織が立ち上がるのが順調で、避難所運営が円滑に進められたようです。 私は生涯学習政策局におります時から、小中学校のみならず、高校、大学や公民館、図書館などの社会教育施設を含めて、地域の核としての学びの場の重要性を訴えてきました。

 学びの場は、いわば、機会や人を集める「プラットフォーム」です。被災地においても、支援の拠点としてだけでなく、地域づくりや地域住民のパワーアップの場としても、非常に重要な役割を担っているのです。

 三・一一を機に、大学が果たすべき役割についても、非常に大きな問題提起がなされたように思います。今回、津波や原発事故に関連して、「想定外」という言葉が批判もされてきました。「大学は何ができたのか、何をすべきか」と、知の拠点である大学の果たすべき役割や学問の在り方について、多くの大学人や研究者から自問自答がなされ、問題提起がなされました。研究面からだけでなく、人材育成の点から、また地域社会への貢献の点から大学の役割が、改めて問い直されました。

 

地域コミュニティが教育の基盤であり、その活性化に尽力

――二〇一一年一二月、板東局長は当時生涯学習政策局長として、「第2期教育振興基本計画の策定に向けた基本的な考え方」を取りまとめられました。この中で、今後の教育行政の方向性として、「社会を生き抜く力の養成」「未来への飛躍を実現する人材の養成」「学びのセーフティネットの構築」「絆づくりと活力あるコミュニティの形成」の四つを打ち出しておられます。これらの具体的な内容をお聞かせください。

板東 一つ目の「社会を生き抜く力の養成」については、震災前から我が国が世界のグローバル化や少子高齢化、格差の進行に直面する中で、その必要性が認識されていました。しかし、震災を経験したことで、困難に直面しようとも諦めることなく、状況を的確に捉えて自ら考え行動する力の必要性が一層認識され、必要な力を身に付けていける環境整備の重要性を社会全体で共有したのです。

 初等中等教育、高等教育で身に付ける力や、社会教育、職業生活、学校内外の多様な環境からの生涯にわたる学びの中で、個人の自立と様々な人々との協働に向けた力である「社会を生き抜く力の養成」を図っていくことが求められています。

 さらに、グローバル化の進展に伴い、必要な力の中身も問い直されています。例えばOECD(経済協力開発機構)が定めたキー・コンピテンシー(注)では、多様性との関わりが非常に強く意識されています。「多様性に富んだ社会の中でどのように、多様な人々と関わりながら生きていけるか」が問われています。つまり、激しく変化し多様化する社会で自立し、協働する力を教育全体を通じて育むことが、今まさに求められているのです。

 「社会を生き抜く力」が、あらゆる人にとって必要な基礎的力だとすれば、これをベースとして、多様な個性や力を最大限生かせる社会づくりを目指すのが、二つ目の「未来への飛躍を実現する人材の養成」です。グローバル化が進展する今日、求められているのは、これからの社会や様々な分野で活躍する人材の育成です。また、東日本大震災からの復興を成し遂げると共に、変化の激しい社会において引き続き我が国が成長・発展するためにも、グローバル化に対応した新しい社会的・経済的価値を創出することが必要であり、そのための個人の個性や能力を最大限伸ばし、活用できる教育環境の整備に行政として取り組んでいきたいと考えています。

 三つ目の「学びのセーフティネットの構築」とは誰もがアクセスできる多様な学習機会を整備することです。様々な困難を抱える人へきめ細かな対応をしながら児童生徒のみならず、再チャレンジやスキルアップを目指す人々、そしてシニア層など様々な希望や課題を抱える人々に対し、多様なニーズに応じた学習機会を確保し、教育成果を保障するきめ細かな対応が必要となってきます。

 さらに、セーフティネットのもう一つの柱となるのが「安全、安心で質の高い教育環境の整備」です。自然災害や、事件、事故から安全、安心を確保すると共に、地域の防災機能の役割を学校が果たしていくためにも、学校施設などの耐震化や通学路の安全確保に向けた取り組みが求められています。学校の情報化など教育環境の充実も必要です。

 四つ目の「絆づくりと活力あるコミュニティの形成」は、学びを通じて人と人とのつながりをつくることを、教育の重要な機能の一つとして考えていくべきだということです。

 今回、人のつながりや支え合いの重要性を私たちは東日本大震災の教訓として得たわけですが、地域コミュニティが教育の基盤や営みそのものであり、逆に学びや学びの場、地域コミュニティの活性化や地域の様々な課題を解決する基盤になることを、私たちは知ったわけです。

 その拠点として学校や公民館を位置づけ、NPO(非営利組織)や企業、大学などとも協働するネットワークを整備していく予定です。

 

イノベーションを生み出すグローバル人材の育成こそが大学の最重要ミッション

――以上の四つの方向性に沿って、今後、高等教育機関はどのような役割を果たしていくべきだとお考えですか。

板東 多様で変化の激しい社会の中で、個人が自立・協働しながら生きる力を養うという意味では、高等教育は非常に重要な意味を持っています。

 これまで、大学教員の目はともすれば研究に向きがちで、教育がおろそかになっていると言われてきました。しかし、今後は、学生に力をつけ、社会に出すという大学教育の原点に立ち戻り、学生の学びを充実させる必要があります。

 国際的に比較すると、日本の学生は他国の学生と比べてかなり学習時間が少ないと言われます。教員個人の努力や大学の教育プログラムの充実・体系化、教育環境の整備などにより、学生の主体的・能動的な学習をしっかりサポートしていくことが重要です。

 今後は、大学の国際化、グローバル化などの流れの中で、様々な改革の動きが出てくるでしょう。高等教育の場で「生き抜く力」を養うという意味でも、こうした改革を加速させる必要があると考えています。

 また、大学に大きな期待が寄せられるのが、「未来への飛躍を実現する人材の養成」です。今後は大学教育の環境づくりも含めて、グローバル人材やイノベーションを生み出す人材の育成を進めなければなりません。そのためには、日本の学生に留学や多様な体験の機会を与え、外国人留学生の受け入れを増やすなど、各大学が各々の個性を重視しながら創造性あふれる学びの環境を整備する必要があるでしょう。

 先ほども一部触れましたが、「絆づくりと活力あるコミュニティの形成」においても、大学に求められる役割は大きいと考えています。大学がもっと地域に開かれた存在になれば、地域との連携の場として機能する可能性がある。この取り組みを進めるに当たっては、教員に限らず、学生も含めて、大学の資源を地域に生かしていくことが非常に重要です。それはおそらく、大学と地域の双方にとって、活性化の機会となるでしょう。教育研究の成果の直接的な還元を通じて、大学が地域コミュニティの形成や課題解決に改めて取り組む必要がある。我々としても、その意識を持って、高等教育行政に取り組みたいと考えています。

 

大学が被災地の復興センター機能を担う

――最後に、被災地の大学への復興支援についてもお聞かせください。

板東 今回の震災で被災した大学に対しては、補正予算の中で復旧を支援しています。

 被災地の各大学が地域のために大変尽力され、地域復興の中核として、最大限の取り組みをしていただいていることは、大変素晴らしいことだと思っています。国も大学に「地域の復興支援センター」としての役割を今後も担っていただくため様々な取り組みをしていきます。

 例えば医療分野で東北大学が実施する「総合地域医療研修センター支援プロジェクト」は、宮城県および被災した自治体などと連携し、東日本大震災で職を失った医療人を大学に受け入れて高度医療人材として育成するプロジェクトです。大学で高度医療技術を習得した後は、被災地域に継続的に人材を還元する中で、被災市町村における医療再生の役割を果たそうとしています。また、被災地の教育復興に向けた取り組みである「宮城教育大学教育復興支援センター構想」では、宮城県教育委員会や仙台市教育委員会とも協力し、他の国公私立大学と連携しつつ、被災地の児童・生徒の学力低下や心のケア、また現場の教職員が直面する様々な課題を解決するための取り組みを行っています。

 今、大学に求められているのは、被災地の復興に必要な人材の育成です。例えば、福島第一原子力発電所事故の発生後着目されることが増えた太陽光や風力などの再生可能エネルギー導入に不可欠と言われるスマートグリッド(次世代送電網)の構築や、津波災害で被害を受けた農業や漁業などの第一次産業の一日も早い復興にとどまらず、農林水産省が推進する、一次産業を基盤としながら二次産業や三次産業を創出する六次産業化などの新しい産業の創出にも関わることのできる、専門人材の育成です。

 被災地の各大学が地域の復興拠点としての役割を果たし、他の教育機関、産業界や自治体と新たな形で連携しながら、人材育成の機能を発揮できるよう、文部科学省としても、予算面も含めて支援していく考えです。全国の大学の知力を結集し、オール・ジャパンで復興を支援していくことが、今まさに求められているのです。

注【キー・コンピテンシー】 多様化し相互につながった世界において、人生の成功と正常に機能する社会のために必要な能力として、OECDが国際合意を主導した。

大学改革提言誌「NasicRelease」第23号
記事の内容は第23号(2012年4月1日発行)を抜粋したものです。

 

 

ナジックリリース第23号・記事一覧

今こそ世界に誇る「地域との絆」を深める時 (文部科学省 顧問 木村 孟)


我が国の「大学力」を結集し、オール・ジャパンで復興を支援 (文部科学省 高等教育局 局長 板東久美子)


震災の教訓を生かすためにも「世界をリードする大学」を実現する (東北大学 総長 里見 進)


大学の役割は、復興へ夢をつなぐ人材を育てること (東北工業大学 学長 沢田康次)


「東日本大震災からの復興に向けた提言」に見る神戸大学の取り組み (神戸大学 学長 福田秀樹)


同じ思いの下、「心のつながり」と「継続」で復興を支援 (神戸学院大学 学長 岡田豊基)


復旧・復興に携わる人材育成の在り方 (東北大学 多元物質科学研究所 教授 村松淳司)


復興・再生の段階に応じた知的支援の在り方 (関西学院大学 災害復興制度研究所 所長 室崎益輝)


判断力と使命感が子供たちの命を左右する 「防災の心構え」 (宮城県石巻西高等学校 教頭  齋藤幸男)